イラクは昨年も激動の1年だった。

イランの革命防衛隊カーシムスレイマーニー司令官の暗殺に始まり、イランから報復ロケット弾が飛んで来るわ、その後新型コロナが蔓延するわ、反政府デモで多数の死傷者が出るわ、もう数え上げれば切がない。(ちなみにイラクの裁判所からは要人暗殺の容疑でトランプ大統領に対し逮捕状が出された。)

その煽りをJCFのイラク事業も真っ向から受け、正直なところ事業の進捗状況は思わしくない。

 

しかし、そのような中クルド自治区エルビルで血液供給を行っているブラッドバンクに対するの血液製剤の品質向上を目的とした支援はなんとか軌道に乗った。また遅れていたモスルの小児白血病治療病院へのフローサイトメトリー(白血病の診断に不可欠な細胞診断装置)もなんとかセッティングを行い稼働開始した。

 

 

しかし、機材を入れただけではだめで、それが如何に実際に役に立っているかをみなければならず、計画した通りに状況が改善するかどうか見極めなければならない、もしできなかったら、どうしよう。。。。その時はまた問題を見つけて解決手段を探るだけだ。

 

ブラッドバンクの事業も大変なことの連続だ。

エルビルブラッドバンクはエルビル全域の公立、私立病院ほぼすべてに血液を供給している。また小児白血病の治療に欠かせない血液製剤もここで製造しているのだ。このブラッドバンクが機材の老朽化で血液製剤の供給が停止するかもしれないとSOSを受けたのが2年前。それをなんとかしなければならなかった。加えて、ここで製造される血液製剤の品質があまり良いものではなく、その改善を行うことも必要だった。製剤の一つである血小板濃厚液について言えば品質管理基準を満たしているものはなんと2%程度しかなかったのだ。基準を満たしていなくても「ないよりはマシだ」ということで、不合格のものもバンバン使用している。(当初ブラッドバンク側は合格基準に達しているものが30%程度はあるという認識だったが・・・しかしこちらで調べ直すと実際には2%程度だったのだ。)

 

しかしブラッドバンク側の状況を思えばこれもやむを得ないかもしれない。

2014年から対イスラム国戦争で出た負傷者や300万人を超える避難民が発生したことで、ブラッドバンクに圧し掛かる負担は増大した。それにも関わらず政府は財政難で十分な物資を供給することや新たな人員を雇うことはできなかった。とりあえず手元にあるものでできる限り製造することで精いっぱいで品質になど構っている暇はなかったのだ。

 

 

7月に新たな機材が入ったことで製造が停止する事態は免れた。ここからどの程度、品質の改善ができるか。実はまだ問題が山積みで今まで品質管理のために行っていた6項目のチェックのうち2項目がコロナウィルスによる財政危機のため保健局から試薬が届かず行えないため、4項目しか行えない状態だ。これを何とかしないとどの程度品質が改善したのか正確にわからない。

 

試薬どころか血液バッグすら不足しており、他のブラッドバンクから融通してもらいながら危機を凌いでいる。まだまだ課題は山積みだ。現時点では肝炎やGVHD(移植片対宿主病)を防いだりする体制を作るところまではできない。せいぜい血液製剤の分量やpH(ペーハー)、血小板数など極めて基本的なところでの品質改善のみにとどまるだろう。それでも改善のため小さな歩みを進めることが重要だ。少なくとも「向上できる」、「改善できる」という手ごたえや実感をイラクの人たちが得られればそれがその後の大きな発展につながるはずだ。

 

昔、『振り返れば奴がいる』というドラマで織田裕二演じる司馬先生も言っていた。

 

司馬「はっきり言う。今の症状じゃ、助かる可能性はゼロだ」

石川「……」

司馬「それを、俺が10%まで引き上げる。お前は、20%まで上げてくれ」

 

100%じゃなくて、80%でもなくて、0%10%になること、10%20%になることの方が大切だということを2021年の抱負としたいと思う。頼むぜブラッドバンク!

ピンピンひらり

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