2019年9月、数百人の医師たちが給与や労働環境の改善を訴えバグダードのストリートを占拠した。
この医師たちによるデモが行われたのは、例の市民が政治腐敗や公共サービスの停滞に対して怒りを爆発させ、広範囲に渡る運動となった大きなデモのほんの数日前のことだ。
イラクにおける医療施設の設備不足や薬品不足の中で、がん患者はヨルダン、トルコ、イラン、そしてインドなどの国外に治療を求めて高額な費用をつぎ込む。
保健省海外医療プログラムのアーミル・アブドゥル・サーッダによると、2018年度においてイラク人患者がインドで治療に費やした額はおよそ5億円である。またインド政府によれば、イラク人に対して5万件の医療ビザを発給している。
ロイターが聞き取りを行ったがん患者11人によると、皆が国外の治療に数千ドル費やしている。
しかし、多くの者が貯金を使い果たし帰国しても、今度は維持療法に必要な薬品が手に入らないと気づくのだ。
アブドッラーのケースがそうだ。(イラクの医療危機を探る旅1を御覧ください)。
彼らはこれ以上、国外での治療費を賄うことができず、わずかに残った金を国内のブラックマーケットから購入する薬に費やしている。
アブドッラー一家はムスタファが病気になる前は中間層に属する経済状況だったが、ムスタファの外科手術に10,000ドル費やした。「骨が折れるよ」とアブドッラーは語る。
さらに高額な注射も必要となる。最初の一本は500ドル、2本目は400ドル、3本目は300ドル、そして翌日のスキャンには1,000ドル・・・。
それでも、家族はムスタファを治療のためインドへ行くための貯金はあった。しかしインドで16,000ドルを費やしたが残念ながら改善はみられなかった。
その後、とある慈善団体の援助を受け、ムスタファはレバノンで治療を受けることになった。
「レバノンでは適切な治療を受けることができた」
とムスタファの父は言う。
しかし、レバノンでの治療費は7,000ドルもするため、家族はムスタファに再びレバノンでの治療を受けさせることはできない。
アブドッラー
「もう追い込まれてしまった。息子をレバノンに連れていくことができない。もう金がない・・・」
薬の費用も問題だ。彼は息子の治療に必要な薬をレバノンから購入していた。それというのも国内で手に入る代用品では効果がないからだ。しかし息子が必要とする薬代だけでおよそ年間3,000ドルになった。
アブドッラーはムスタファの看病を行うことだけに集中するため、これまで務めていた正規の仕事を辞め月640ドル~720ドルほど稼げる雑役に従事することにした。
「サダムの時代の頃の方がマシだった。あの頃は誰かを見捨てるなんてことはなかった。少なくとも努力はしてくれたし、動いてくれた。今はそうじゃない。誰も他人のことなど気に留めないし、同情もしない。この国にからは思いやりの心が失われたんじゃないか」
これはロイター通信が作成したイラクの医療事情レポートを翻訳したものです。
イラクの医療事情問題の把握にとても役立ちます。
アラビア語版
https://ara.reuters.com/article/topNews/idARAKBN20P1ZF
英語版
https://www.reuters.com/investi…/special-report/iraq-health/
前回までの記事
1 https://jcf.ne.jp/wp/archives/4456
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