思いがけず、原発から3キロ地点、双葉町まで、入ることができた。鎌田先生のおおらかな荒業である。
津波の爪あとが残る海岸線には、漁船が横たわっているだけ、何も無い。遠くに福島第一原発の煙突が見えた。20キロ圏内で、瓦礫撤去作業をしている石川建設の佐藤さんに案内していただいた。
サーベイメーターで、放射線量を測った。0.6マイクロシーベルト。積み重ねられた瓦礫の隙間は、0.8マイクロ。浜は、風に吹き飛ばされて線量は低い。
6月11日、ジャズ・ミュージシャンの坂田明さんが、テナーサックスを持って、南相馬に入った。原発から20キロ警戒区域を見下ろす小高い丘の上にある大甕(オオミカ)幼稚園から、原発に向かって吹いた。
曲は「ふるさと」。
原発事故によって、人生を、生活を断ち切られ、不安に慄くたくさんの人達。私たちは、この地にあったたくさんの生き様を思う。緑の森、広い田畑・・・そして津波にさらわれてしまった命。
「ふるさと」は揺れながら、決して消えることのない心の拠り所を私達の内に呼び覚ます。海の幸、大地の恵みに支えられてきた人々の暮らしがそこにあった。
原発への怒りの前に、何より確かなもの、何より大切なものを「ふるさと」は呼び起こしてくれた。