ブックタイトルグランドゼロ107号

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概要

「グランドゼロ」は、訪問団やセミナーなどJCFの活動の様子、事務局からのお知らせなどを掲載した季刊誌です。

46 『半減期を祝って』の他、高村薫の大噴火に伴う降灰と、火山灰による停電が引き起こした原発の過酷事故後の日本を描く『移動販売車』、人工授精や移民の子どもを「購入」する社会を描く谷崎由依『黒板』、橋本治『98歳になる私』等の作品にも心躍る未知の世界への期待は片鱗すらない。今と地続きのどんよりとわびしい諦めの色濃い荒涼とした世界が描かれている。多分それは30年後の未来を描くことで、今の社会が内包し、私たちが日々育てている「破滅」の芽の行きつく先を想像し、今について語っているからだろう。 未来に手渡そうとしている世界の寂しさに呆然とする。『黄金色の夜』」(表題作他5編) そしてこれは失われた過去の物語。 昨年末の朝日新聞の書評の一年のまとめで、書評委員各自が推薦する「今年の3点」を紹介する企画があった。書評委員の一人、三浦しをんがこの作品を絶賛していた。たまたま宇江敏勝さんは友人のおじさんでもあったので、何だかうれしくなって早速購入した。 表題作は父と備長炭を焼きながら聞く父の昔語り。目前で進む炭焼きの過程と、父の昔語りの中の炭焼き。その二つがオーバラップして炭焼きのクライマックス、煉ねらしを入れた炭を寄せるおきの返しの場面の美しさが出現する。 普通の炭は黒くろずみ炭と呼ばれ、炭が焼けると、炭焼き窯のすべての火穴を土で塗り込めて窯の中に入る空気を断ち、三日間ほどそのままにして作る。 それに対して白しろずみ炭と呼ばれる備びんちょうたん長炭は、炭が焼けると黒炭とは逆に窯の口を開け、空気を送り込み、炭化したかたちでおさまっている炭の温度を高くして作る。空気を送り込み過ぎると炭が粉々にくだけるだけでなく、窯が爆発するかも知れない。少しずつ空気にふれることで、窯の中の温度が上昇し、熱と空気の作用によって炭は火の光を増し、同時にひきしまって硬くなるのだという。この作業を「煉らしを入れる」という。煉らしは根気よく続けられ、十時間ほどもかけてようやく窯の口の下の部分を全開にする。そのとき窯の中に立ちならんだ炭は黄色い火の光を放つまでになっている。そこからやっと窯出しが始る。金色に光る備長炭を「柄え降ぶり」という道具で掻き出していき、素灰(土と灰を混ぜたもの)をかけて急速消火する。この「窯出し」には長い場合は12時間以上かかることもあり、熱さも半端ではなく体力は限界に近づく。これを何度も繰り返すのが炭焼き仕事なのだという。 釜の中で赤々と燃えるウバメガシがとろけるような黄金色に輝き、その黄金色が呼吸するように動く。以前テレビ