ブックタイトルグランドゼロ107号

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概要

「グランドゼロ」は、訪問団やセミナーなどJCFの活動の様子、事務局からのお知らせなどを掲載した季刊誌です。

45の子どもも入団を許されない。一番評価が低いのはトウホク人で、かれらは高貴なヤマト人種を穢し、ニホン社会にも害毒を及ぼしている。ASDの美少年・美少女はトウホク人を差別する活動に従事している。トウホク人は逮捕されると「シャワー室」送りになると噂されている」。 「愛国少年団」はヒトラー・ユーゲントのイメージと重なり、ASDは自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群(社会性や言語コミュニケーション能力を欠くタイプの発達障害)の略語も連想させる。何かいろんなものを寄せ集めカリカチュアした物語にも思えた。しかしふと立ち止まって考えてみると、これは30年後ではなく、今の日本の姿をデフォルメしているようにも思えてきた。語られているすべてが30年後ではなく、今の物語だと。それはうそ寒い気付きだった。 私は長いこと津島祐子が太宰治の娘であることを知らなかった。津島はそれが表に出ることを嫌い同人誌仲間にさえ隠していたそうだから、私が知らなかったのは当たり前かもしれないが。彼女は、私生児や孤児、障害者、少数民族、動物のような世の中の周縁的な存在について書く作家であったという。虐げられたものへの共感と深い愛情をもち、そのために世界各地で活動し、フランスの大学でアイヌ文学について講義したこともあるという。アイヌの伝承に基づく童話も書いている。その津島が痛みなしにアイヌ人が差別され虐げられていると書くはずがない。死の間際に残した『半減期を祝って』で津島の伝えたかったことは何だったのか……。 山が汚染されているから、雨が降ると川に放射性物質が泥とともに流れ込み、何年も経って川の泥が海に注ぎ込む。それでも二十年以上前だったか、河口での競技が含まれるオリンピックが強行されたのだった。競技など行われたら、どんどんひとが倒れる、と不吉な予告をするひとたちがいた。ところが、なにも起こらなかった。いや、とっくに深刻な変化がおきていた。「ASD」を作った現政権はオリンピックの熱狂の余波から生まれたのではなかったか。変化は思いがけないところからはじまった。そしてその変化はもう、だれにも止められない。 今まで、なにも気がつかないふりをしてきた。気がつきたくない。なにかに気がついたところで、どうすることもできないのだから。(中略) 老女は涙を流しつつ、美しくかがやくトウキョウ湾を眺めつづける。 最後の行に、残された津島のまなざしを感じる。