ブックタイトルグランドゼロ107号

概要

「グランドゼロ」は、訪問団やセミナーなどJCFの活動の様子、事務局からのお知らせなどを掲載した季刊誌です。

12のです。　ただし、ここで問題が生じていました。ニーナワー県の一県がまるごと壊滅し、そこから一挙に数十万人という人がクルド自治区になだれ込んできたわけですので（クルド自治区の人口の３割以上を国内避難民が占めるようになった）、クルド自治区においてそうした避難民にきちんとした医療サービスを提供できる場所を確保するのは困難です。ちなみにクルド自治区はイラクの一部ですが言葉も民族も行政システムもイラクの他県とは異なりますので国内避難民とはいえ、実質国外に避難することに等しいと言えるのです。例えるならば人口24万人の松本市に８万人の外国人が一挙に避難してきたようなものでしょう。　ニーナワー保健局の職員は総勢で６０００人存在し、マンパワーはあるのです。これを投入できれば、かなり効果的に避難民への医療サービスを提供できるのですが、場所の確保が難しいことが同保健局による医療サービスを再興する上で大きな障害となっていました。クルド自治区の財政危機　実は上記の問題を解決できる光明が差し込み始めました。これを説明するためにはたくさんの避難民を受け入れているクルド自治区の現状について説明しなければいけません。　まずクルド自治区は『自治区』という名称の通り、現在はイラクの一部ですが、常に独立を志向しています。これは近代に入り国境線によって各国（イラク、トルコ、シリア、イラン）にそれぞれ分断されてしまったクルド民族の長年の夢でもあるわけです。現在のクルド自治区は自治権を持っているとは言え完全に独立できているわけではなく、予算の大きな部分でイラクの中央政府に依存しています。　現在このクルド自治区はイスラム国との紛争により戦費が増大、また歳入のほとんどを占める石油歳入も、原油価格の下落によって減少、それに加えて人口の３割以上に相当する国内避難民、難民を抱えています。クルド自治区は現在イラクの総予算の17％が割り当てられているのですが、イラク中央政府との政治的対立によって現在も配分が行われていません（これはクルド自治政府がクルド自治区内で採掘されて得た石油収入を中央政府に支払っていないということに起因するものですが）。こうした事情により、深刻な財政危機に陥っています。特に公務員への給与支払いが遅れており、また支払われる給与15％?75％の幅で削減されています。クルド自治政府はこのような緊縮政策を実施していますが、これは公的支出の減少、停止を招き、クルド自治区にとっては大きな打撃となっています。