ブックタイトルグランドゼロ105号

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概要

「グランドゼロ」は、訪問団やセミナーなどJCFの活動の様子、事務局からのお知らせなどを掲載した季刊誌です。

51現象の彼方への遠いまなざしを託された「白い鹿」。ここ数日、私はその射抜くような眼に、今この時、何が映っているのかを思い巡らしながら過ごしました。コンクリート建造物内部の細長い部屋の床には、絨じゅうたん毯が敷かれており、数十人の男女がスーツ姿の正装を振り乱しながら揉み合っているのが見えます。建物を取り囲む国民の怒号も顧みず、巨大国家の要請に応じて「権力」と「金」に絡む陰謀と、数の力に恃たのんだ暴挙が押し通されました。歴史に恥ずべき、喜劇とも悲劇ともつかない醜態です。欲望の充足に溺れた私たちは、こうした蛮行の背後で、「生物多様性」が危機に瀕していることに気づきません。沖縄県、山やんばる原の森・高江。そして、大浦湾・辺野古。深い森の奥には貴重種の鳥たちが棲んでいます。政府はこの地に「オスプレイ・パッド」の建設を進めています。大浦湾では、世界でも希少なサンゴ礁や藻場が、絶滅危惧種のジュゴンを養っています。政府はこの海をトラック三五〇万台分の土砂で埋め立てようとしています。空と大地と海を、鳥や獣や魚から奪い、戦闘機や戦車や軍用艦に明け渡す、この罪業を支持し黙認しているのは、他ならぬ私たち消費社会の追従者なのです。かけがえのない土地。福島県、飯舘村。牛の涙。白装束の防護服に身を包んだ夥しい数の作業員が、焼け付く陽光の下でマスクをはめ、汗だくになって除染作業を続ける姿。密かに林道を行く、積荷不明のダンプの群れ。その最果ての、新築したばかりの小学校。沿道に累々と積み上げられた、黒い「フレコン・バッグ」の山、山、山。隣接する川俣町のプレハブ校舎まで、福島市の仮設住宅から毎日スクールバスで通学する村の子どもたちの受難。『日本で最も美しい村』の名に恥じない、緑豊かな森林を擁し、夕ゆうげ餉の食卓にその日射止めたイノシシが供された村民の暮らしは、見るも無残に引き裂かれました。森羅万象と共存して来た、父祖伝来の生命の蹂じゅうりん躙です。白い鹿よ、どうか再び、私たちの前に臨んでください。(二〇一五年九月一九日未明戦争法案強行採決の只中で)『白い鹿』再刊記念ヨゼフ・ドミアン作品展十月九~十九日銀座・教文館三階ギャラリー