ブックタイトルグランドゼロ105号

ページ
50/64

このページは グランドゼロ105号 の電子ブックに掲載されている50ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

「グランドゼロ」は、訪問団やセミナーなどJCFの活動の様子、事務局からのお知らせなどを掲載した季刊誌です。

50連載随筆宮尾彰白い鹿~福島県・出会いの旅7~NO.60黒の地を背景に、縦長の画面いっぱいに横おういつ溢する生命。天空に翼を広げて舞う一羽の鳥、中央に厳かに立つ一頭の鹿、その足元を礎いしずのえ如く支える一匹の魚。三つの生命の身体に、さらにはそれらの隙間を埋める中空に、くまなく描き込まれた、囀さえずり合う鳥たちの姿。鳥たちの生命、鹿の生命、魚の生命。空、大地、海。これらは互いにどこから始まり、どこで終わるのか?この不思議な画の中では、すべてが含み合っているためそこに線を引くことは意味を持ちません。作品の名は、Deer vision(幻を視る鹿)。ハンガリーに生れ、アメリカで活躍した版画家ヨゼフ・ドミアン(1907―1992)が遺した生命の曼荼羅です。今からおよそ四十年前のコト。信州の山麓に庵を編む一人の司祭が、ニューヨーク近郊の深い森の中を散歩していた時、背後から自分を呼び止める声を聴きました。「私の家に来てください。私の家はギャラリーなのです」それは、自らWood cutterと名乗る老人でした。互いに、相手がどこから来た何者なのかも知らぬまま、彼らはおのづからひとつの促しに身を委ねます。「私の版画の右側に、あなたの筆の字を書いて下さい」この押田成人(1922―2003)と孤高の芸術家ドミアンとの邂逅から生まれたのが、木版画集『白い鹿』でした。二人の魂が呼び交わす感応道交の境涯から、遥かに遠く被造世界の運命を見通す預言の文が織られたのです。