ブックタイトルグランドゼロ104号
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「グランドゼロ」は、訪問団やセミナーなどJCFの活動の様子、事務局からのお知らせなどを掲載した季刊誌です。
49は思わず「ママよ」と答え、「私の母」を演ずることになる。電話を通しての1980年の私と2009年の私との対話が、この小説を繋いでいく。1980年、私はアメリカ合衆国の雪に閉ざされた寂しい田舎町メーン州の高校に留学している。学校長から本来の学年に進級するために全校生徒の前でディベート形式での発表を課せられる。テーマは「天皇の戦争責任」。二手に分かれる討論者のうち、私は「ヒロヒトに戦争責任はある」側の論者になることを求められる。戦争についても東京裁判についても何も知らない私は、初めて戦争と東京裁判について調べはじめる。読者はマリと一緒に、日本国憲法や東京裁判をマリの読む英語の資料を通して知ることで、日本語では見えなかったものが見てくる。例えば東京裁判の〈A級戦犯〉とは一番罪が重い「ランクA」を意味しない。クラスA─平和に対する罪─という種別で、罪の重さではない。またこの「平和に対する罪」と「人道に対する罪(C級戦犯)」については戦勝国により作られた事後法であり、事後法をもって裁くことは国際法に反すると主張した連合国派遣の判事もいた。GHQによる憲法草案前文にダグラス・マッカーサーは、リンカーンのゲティスバーグ演説の有名な一節(人民の人民による…)を織り込んだ。あのリンカーンの演説は大統領就任演説ではない。アメリカの内線、南北戦争で死者を多数出したゲティスバーグで、戦死者を弔う運動に対して行われた。奴隷制廃止を「すべての人は平等に創られている」という命題に結びつけ、アメリカという国の根幹に接続するこの演説によって、アメリカの歴史は意義を与えられる。戦死者さえもその先へ進むためのものとして犬死から救い、さらに自分たちを「自由と民主主義をこの先へと進めるものたちである」とした。神話が作られたのだ。翻ひるがえって日本では1946年、GHQ主導により、「天皇の人間宣言」と呼ばれる詔書が出され、天皇が神であることが否定された。古代から勝者は敗者の神話を奪う。マリに英霊の声が聞こえる。三島由紀夫『英霊の声』の一節が。「などてすめろぎは人間となりたまひし…人間としての義つとめ務において、神であらせられるべき時、もつとも神であらせられるべき時に、人間にましましたのだ……」英霊達の死は繰り返し犬死とされてしまった。天皇の戦争責任を論ずるディベートの日、ディベート相手は学スクールカースト校階級の頂点に立つアイスホッケー部のエース・クリストファー。彼にとってはこれはゲーム、そしてマリにとっては自分の問題、勝ち目は最初から無い。