ブックタイトルグランドゼロ103号

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概要

「グランドゼロ」は、訪問団やセミナーなどJCFの活動の様子、事務局からのお知らせなどを掲載した季刊誌です。

48連載随筆宮尾彰ジヴァゴ(被造物の……)~福島県・出会いの旅5~NO.59ボリース・パステルナークの大作『ドクトル・ジヴァゴ』を工藤正廣氏の新訳(未みちたに知谷刊)で味読しました。第一次世界大戦、二月革命によるソヴィエト政権樹立、スターリン体制下での粛しゅくせい正の嵐、第二次世界大戦、冷戦。激動の半世紀を、ユダヤ系ロシア人として生き抜いた詩人による、極めて自伝的色彩の濃い長編散文詩です。或る日、予告も無しに、理不尽な力で個人の生活を巻き込み、そのまま容赦なく翻弄し続ける暴力としての歴史。かけがえのない家族を守り、命がけで圧政の支配に抗う主人公たち。彼らの存在に宿る、繊細な感性、生きることへの誠実さ、母なる大地との静せいひつ謐な交歓。今、彼らの嘆き、悲しむ声が、直ぐ耳元に聴こえます。十二月下旬、八重洲で『被災後の子どもの心とそのケアからの実証』と題して厚生労働科学研究費による三年半の被災地支援を総括するシンポジウムが開かれました。研究者が並んだオープニングに続く質疑応答の際、私の前列に座った一人の婦人が、こう質問されたのです。「この場で福島の話題を出すのはタブーでしょうか?」娘宛てに届いた大判の封筒を示しながら、彼女は母子で県外に自主避難した立場を表明し、復興と帰還を奨励する世論の只中で孤立する少数者の困窮を訴えました。「『放射能はやるな』と言われておりますもので……」司会者は、管轄が文部科学省であることを釈明しました。未だその緒に就いたばかりの、これから先数世代に亘る永い闘いを、彼女の発言が黙示しています。