ブックタイトルグランドゼロ101号

ページ
49/60

このページは グランドゼロ101号 の電子ブックに掲載されている49ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

「グランドゼロ」は、訪問団やセミナーなどJCFの活動の様子、事務局からのお知らせなどを掲載した季刊誌です。

49ジェンダーのありようをステレオタイプのように断罪(または賞揚)することをせず、その複合的な像を描くことに細心の配慮を払っている。例えば、古代中国の女性を「儒教的な家父長制」のなかで論じながらも、その一方で男と女の気が対等に存在するという「道教的男女観」も存在したことを指摘している。または1920年代の中国国民革命が纏足を否定してそれをほどかせたとき、すでに纏足していた女性たちの小さな足は元に戻らないから彼女たちの心身の苦痛が新たに生まれたことを描き出す。こうした複合的な見方をすることによってこそ、歴史を学ぶことが政治イデオロギーに直結してしまうことを回避できる。本書は、女性がいかに抑圧されてきたかを描いているばかりではない。むしろ本書を読んで痛感するのは、女性がいかに活躍してきたかということである。例えば、「15章現代」に登場する女性たちを見てみよう。14年にもわたるリベリアの内戦を終結させる原動力になったのは、リーマ・ボウイーを指導者とする女性たちが3年ものあいだ連日和平を訴えた非暴力活動であった。2011年に彼女はノーベル平和賞を受賞する。1972年生まれの彼女だから、40歳にならない若さでの受賞である。その2011年と言えば、3・11の福島原発事故の年でもある。早くから原子力発電所の危険性に警鐘を鳴らすとともに核戦争防止国際医師会議を組織した女性が、ヘレン・カルディコットである。この会議は1985年にノーベル平和賞を受賞している。彼女が3・11の後ほどなく来日して精力的に発言を重ねたことを記憶している方も多いであろう。このように女性を描く世界史は、人類の問題の解決に挑む具体的な生き方を提示することになる。人間に関わる物事は、どれも歴史的に形成されてきたものであり、今後も未来に向かって変化していくものである。だとすれば、私たちが歴史を変えていくことができるはずなのだ。「男らしさ」や「女らしさ」、そして性的マイノリティに対する私たちのしなやかな眼差しを養うために、本書は格好の教科書となるだろう。本書は、私にとって、こんな本があったらいいのに……と願ってきた待望の一書である。著者たちに心からの拍手を贈りたい。小川幸司(おがわこうじ)長野県の高校で世界史を教えてきた教師。NHK文化センターの講師も務めてきた。著書に『世界史との対話』上中下(地歴社)など。