ブックタイトルグランドゼロ100号

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グランドゼロ100号

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概要

「グランドゼロ」は、訪問団やセミナーなどJCFの活動の様子、事務局からのお知らせなどを掲載した季刊誌です。

81最近とみに、偏重した愛国心と危機意識の扇動による、手続きを無視した横柄な政治がまかり通っています。「死に損ないのクソじじぃ」「最後は金目でしょ」修学旅行で長崎を訪れた少年の吐き捨てた暴言と、除染土の廃棄処理に関する環境大臣の不用意な失言によって、この国を蝕むしばむ「凡庸なる悪」が露呈されました。両者に共通する、他者の悲傷に対する完全な無関心と、自分だけは絶対安全な場所に身を置いているという特権者の発想は、同じひとつの病根から生まれています。目下、塚田棟梁は原発災害情報センターの隣に、六万冊の文献を保管する容量を有した資料館を建設中です。百年後のあなたよ!今、ここに私の犯した罪を慎んで告白します。四日の正午近く、到着した私たちを迎えてくれたのは、編み笠に作務衣姿で重機を操る小柄な老人でした。実にこの人物こそ、同館理事長・塚田一敏氏その人で、母屋の古民家は彼と有志がボランティアで移築、再生したものだということでした。高台に広がる敷地の入り口に建つ新築の木造家屋は、彼の弟子が棟梁を務めた「原発災害情報センター」です。本来なら国や県が後世にこの悲傷の記憶を伝えるために開設すべき器を、名もない団体がその手で造ったのです。展示を拝見し、運営者と語るのには二日を要しました。十八日には、鎌仲ひとみ監督を招いての設立総会があると知り、瞬時にその摂理的会合への参加を決めました。六十余名を集めた総会では、家族と離れて独り白坂の地に留まるセンター長と博物館の館長も挨拶をされました。夕刻からベランダで持たれた宴の席で、私は若き棟梁がぽつりとつぶやくのを聴いたのです。「今僕たちのしていることは、五十年とか百年が経ってようやく理解されるような営みなんじゃないかな」同館は、二〇一一年十一月十一日に『水俣・白河展』を主催し、不知火の漁師・緒方正人氏を招聘しています。ここには、人類史に開かれた時間が流れているのです。